2025年12月2日、石川県かほく市で、83歳の男性ドライバーが横断中の小学生をはね、そのまま立ち去ったとして逮捕される痛ましい事件が起きました。
被害を受けた男子小学生は左大腿骨を骨折する大けがを負い、救護をせず事故の届出も行なわなかったことで、「ひき逃げ」として社会の批判を集めています。
加害者は「仕事の段取りをして現場を離れた。すぐ戻るつもりだった」と語っているようですが、法的にも倫理的にも到底容認できる言い訳ではありません。
当記事では、事故の経緯、適用される法律、そして高齢ドライバー問題という社会的な課題も含めて考察します。
83歳男が起こしたひき逃げ事故の詳細
この交通事故は、12月2日午後4時55分ごろ、石川県かほく市木津の市道で発生しました。
加害者は軽自動車を運転しており、左側から横断してきた市内在住の男子小学生をはねたとされています。
事故によって小学生は左大腿骨を骨折する重傷を負いました。
しかし、事故直後、加害者は救護も事故の届出もせず、その場を立ち去りました。
後に、事故を目撃した通報を受けて警察と消防が現場に駆けつけ、間もなく加害者が現場に戻ってきたため、ひき逃げなどの疑いで逮捕されました。
加害者は「事故の後、先に仕事の段取りをしようと現場を離れた。すぐに戻るつもりだった」と供述しているとの報道です。
だが、その言い分は法的な救護義務を果たさなかった事実を覆すものではありません。

適用された罪状と法律上の問題点
このような事故では、単なる過失運転致傷だけではなく、より重い責任が問われる可能性があります。
なぜなら運転者には、事故直後に「救護義務および報告義務」が課されているからです。
具体的には、下記の通りです。
救護義務違反(いわゆる「ひき逃げ」)
事故により他人を傷つけた場合、運転者は直ちに車両を停止し、負傷者の救護および道路の危険防止措置を講じなければなりません。
これを怠ると、法定刑として「10年以下の懲役または100万円以下の罰金」が定められています。
報告義務違反(事故不申告)
また、事故の日時・場所・負傷者の数やけがの程度などを速やかに警察に報告する義務もあり、これを怠ると「3か月以下の拘禁または5万円以下の罰金」が科される可能性があります。
過失運転致傷罪などの併合
被害者が大けがを負っているため、事故の原因が過失であった場合には過失運転致傷罪が併合される可能性も高く、刑事責任は非常に重くなります。
行政処分としての免許取消・欠格期間
さらに、救護義務違反により、違反点数35点が科されることが一般的で、これに事故点数も加算されれば、免許取り消しとなり、免許再取得には一定期間(たとえば3年間)欠格となる可能性があります。
こうした法体系を考えると、たとえ「すぐ戻るつもりだった」と言っても、現場を離れた時点で救護義務および報告義務に違反したことは明確で、それ自体が重大な犯罪とみなされるのです。
“すぐ戻るつもりだった”は通用するのか?
運転者に課される義務は、事故直後に「即時対応」を求めるものであり、時間稼ぎや自己の都合を優先する言い訳には基本的に道を開きません。
実際、「少し離れて駐車場に車を移してから戻る」「コンビニで飲み物を買ってから戻る」といった行動でも、裁判例では救護義務違反と判断されたケースがあります。
つまり、「一時的にでも現場を離れた」「戻るつもりだった」という意図や善意の有無は問われず、義務違反の時点で「ひき逃げ」は成立します。
被害者が子供であればなおさら、放置の重大性は高く、厳格な処分が科される可能性が非常に高いと言えます。
高齢者ドライバー問題と今後の対策
今回のような高齢ドライバーによる重大事故は、単なる「個別の不注意」ではなく、社会全体で向き合うべき構造的な問題として浮上します。
加齢による身体・認知機能の低下
年齢を重ねることで、動体視力や判断力、反応速度などが低下し、咄嗟の判断や安全確保が難しくなる場合があります。
加えて、複数の情報を同時に処理する能力や瞬時の判断力も衰えやすいという指摘があります。
免許制度と高齢運転者対策の強化
日本では、70歳以上の高齢ドライバーには「高齢者講習」が義務づけられています。
さらに、75歳以上の免許更新時には「認知機能検査」が必須で、違反歴のある人には「運転技能検査」が加わります。
しかし制度だけでは限界も
とはいえ、免許返納や運転の自粛を必要と感じても、地方では車が生活の足であるケースが多く、即断・即実行は難しい現実があります。
さらに、認知機能検査をクリアしても事故が起きていることもあり、制度だけで「安全」を保証するのは難しいというデータもあります。
社会全体でのサポートと意識改革の必要性
高齢ドライバーが安心して運転できる環境を整えるには、公共交通の整備、見守り支援、家族との話し合い、返納後の移動手段の確保など、多角的な対策が必要です。
ネット上での反応と声
ネット上では、本件の報道を受けて、様々な反応が寄せられています。
・「たとえ高齢でも、事故を起こしたら逃げず救護すべき」「“戻るつもり”など言い訳にすぎない」 — 多くの人が被害者への同情と加害者への厳しい目を向けています。
・「高齢ドライバーの免許返納を義務化すべき」「自主返納だけでは不十分」 — 制度の甘さや高齢者の運転継続への懸念を示す声。
・一方で、「地方は車がないと生活できない」「返納したら買い物や通院が困る」 — 特に地方在住の高齢者やその家族から、免許返納に対する実利的な不安の声もあります。
こうした反応からは、「安全最優先」と「高齢者の生活維持」の両立がいかに難しいか、社会全体で考えていく必要性が見えてきます。

まとめ
この交通事故は、単なる事故ではなく、高齢ドライバー問題や社会の移動インフラの在り方、そして事故後の対応の重要性を考えるきっかけとなるものです。
まず、事故を起こしたら「すぐ戻るつもりだった」などいう言い訳は通用せず、法令が定める救護義務・報告義務は即時に果たさなければなりません。
今回のように子供が大けがをした場合、その責任は極めて重いものになります。
さらに、高齢化が進む日本社会において、高齢者の運転安全はもはや個人任せでは済まされません。
免許制度の強化だけでなく、返納を支える地域交通の整備、高齢者の移動手段の保障、家族や地域での声掛け──これらを含めた社会全体での対応が必要です。
私達1人1人が「もし自分や自分の家族だったら」と立ち止まり、安全を最優先に考える。
それが、こうした事故を減らすための第1歩です。

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